8月12日

フットサルの試合が急遽キャンセルになった。2時30分に起きて、30分で用意し、3時に家を発つ。国家の制度にあわせて、極力出費を減らすように、午前4時まで行けるところまで下道を走り、3時58分に高速道路に乗り込む。途中睡眠を交えながら、恵那で高速を降り、木曽路をゆく。夜は明けていた。木曽路は中山道とも呼ばれ、急峻な谷を流れる木曽川に沿って京都と江戸を結ぶ街道。ああここは頻繁に人の行き来があったのだな、島崎藤村の『夜明け前』の現場なんだななんて思いながら、塩の道の塩尻を抜け、諏訪を通り、上田には昼過ぎに着いた。

数日の食事を仕入れるために最初に上田に出向いた。この数日は小麦を解放する。小麦製品の保存力と利便性はあなどれない。丁寧に作られたルヴァンのあんパンはわざわざ食べたいあんパンなんです。

それから近くにあるブックスアンドカフェ・ネイボヘ。Amazonで古書を購入する際、値段に大きな開きがない限りVALUE BOOKSで購入する。それは、VALUE BOOKSの実店舗がネイボであるからなんです。ネイボがいい店なのを知っているから応援したいとおもっている。誰かが言っていたけど、何を買うかは、選挙の投票とおなじだと。いい本屋ってずっと居られる。白洲正子『道』、ちくま日本文学『折口信夫』、橋本治・夢枕獏・いとうせいこう『怪しの世界』を購入する。コーヒーをテイクアウトして、これまた楽しみにしていた、お気に入りの別所温泉へ。上田市街から対面に見える山の中腹へ、緩やかな坂を車で30分上っていく。人里離れた山の中腹にこじんまりとした温泉街。公共の浴場が150円で一般客に解放されている。歩いて5分の駐車場から、ムクゲを横目に向かっていると、卵の腐ったような硫黄のにおいがぷわーんと漂う。浴槽は、露天風呂と内風呂のみ。洗い場には、イスと桶しかない。シャワーなし。蛇口から出る硫黄の源泉を、桶に貯め、頭からかぶる。これだけでいい。他には何もいらない。いい湯だな。


毎年この時期には、だいたいどこか遠くの山(だいたい長野)に向かう。登る時もあれば、眺めるときもあれば、近寄るときもある。数日前に読んだ白洲正子『近江山河抄』にこうある。「日本人にとって、自然の風景というものは、思想をただし、精神をととのえる偉大な師匠であった。そして、その中心になる神山、生活にもっとも必要な木と水を生む山が、女体にたとえられたのは当然であろう。」ぼくが遠くに行く理由はどうやらこの一節に隠されているのではないかとおもう。