4月30日

20時30分過ぎに、ライトとスマホを手に、Bluetoothのイヤホンを耳に、近所を走る。西の空には上弦の月が際立っている。長袖と半パンでちょうどいい夜であった。小学校の頃の通学路を、5分ほど走っていると、突然、丹田から熱が体をめぐっているように感じた。そのとき、Miles DavisのKind of blueが流れていた。徐々に気持ちよくなってくる。ランナーズハイなのかな。少し先の、ふたりのランナーを追い抜いて、小学校の校門に着いたら引き返そうと思っていたのに、校門に着く頃には走ることが気持ちよくなっていた。ある瞬間にはこうとおもっていたのに、次の瞬間にはそれまでのことがなんだったの、ってくらい簡単に、人が変わったように決断にそっぽをむく。これだから、にんげんてのは。なんておもいながら、まだ止まりたくなかった。そのまましばらく走り続けた。境界をつなぐ橋の手前で引き返す。ペースが上がり、息遣いがすこし乱れ、周りの音が小さくなってきた。左の靴紐が解けているのに気づいた。まだ止まりたくない。そのまま走り続ける。スマホのストップウォッチを見ると20分が経っていた。右の靴紐も解けた。止まって、両方の靴紐を結んでいると、心臓がドキンと大きく聞こえる。一旦止まってしまったら、ペースを元に戻したくなくなった。ゆっくり走りはじめ、歩道橋を渡ったら、家まで歩くことにした。Roberto MusciのClaudia, Wilhelm R And Meを聞きながら、大きく息を吸って、吐く。いろいろな匂いから、いろいろな思い出や考えが溢れ出てくる。ゆっくりと歩いていると、世の中が騒いでいる世界とは、別の世界にいるようで、目の前の穏やかで優しい夜に包まれていることに気が付いた。