8月5日

浜名湖にいます。昔の滋賀は近江と呼ばれ、当時の都である京都に近い淡海は、近つ淡海から近江と呼ばれ、遠つ淡海は、浜名湖のことだった。

5時30分に起きて、30分で支度を済ませ、6時に家を出て、8時30分に浜松の三ケ日にある鰻屋、加茂に着いた。10名ほど並んでいた列の最後尾につく。8時50分頃、玄関から大将が出てきて、紙に名前と電話番号を記録していく。12時からの予約を済ませる。電話予約は承っていないから、朝に店を訪れ予約をするほかない。予約をしないと食られるかわからないのは、人気店だからなのでしょう。結果、朝早くに三ケ日にまで行かなくてはいけない。

さて、12時前に駐車場に着いてしばらくすると、着信があり、準備ができたと連絡が入る。入店の際に、すでに11時からのお客さんはみな退席していた。食事中に客の出入りがないように気を遣っている。カウンター席に座ると、目の前で大将が活きたうなぎを捌きはじめる。鮮度のいい食材に勝る料理はない。捌き終わったうなぎを串に刺し、炭火でじっくり両面を焼いていく。焼き具合を確認しながら、何回もひっくり返し、最後にうちわで炭をあぶって火力を上げ、皮をこんがり焼き、壷に入ったタレをつける。パリフワ肉厚の三ケ日のウナギ、たまりません。


食べながら、先日読み終えた白洲正子『近江山河抄』の「自然を活かしているのは言葉なのだ。或いは歴史といってもいい。(中略)自然は、−少なくとも日本の自然は、私たちが考えている以上に人工的なものなのだ。」が思い浮かぶ。

 

ぼくがこの鰻屋を訪れたのは、浜松三ケ日の鰻がヤバいと聞いたからだ。丁寧に作るひとがいて、それを食べる人がいて、その間にいるヒトの言語化なしには、ぼくは絶品鰻にたどり着けなかった。言葉が、自然も文化も産業も国家も生かしている。


それから、天竜川沿いにある 秋野不矩美術館に向かう。ここを建てた藤森照信さんの展示がちょうど開催中だった。展示では、藤森さんの建築のスケッチやメモ、依頼者とのやりとりのFAXが見れる。西日の当たり方や、エントランスからの建物の見え方、使う素材の特徴や、土地と素材の関係などが見てとれる。諏訪の守谷邸のメモには、守谷家とは?とその依頼主の歴史を紐解くことから建築をはじめていたり、漆喰を小手で塗るのは難しいから仕上げは箒がいいとか、漆喰に入れる草はいろいろ試したけどやっぱり藁じゃなきゃだめだとか、藤森さんの著書や、建築を見るだけじゃわからない、それを建てるまでの試行錯誤を垣間見れる。美術館の常設の秋野さんの作品のあるメインの部屋へは下靴を脱いで、裸足でいくのだけど、大理石の肌触りが心地いい。壁は白い漆喰が塗られ、秋野さんの作品が浮かび上がる。美術館からの去り際に、「木を相手にする仕事ほど精神衛生にいいものはありませんね。」というメモを見つけ、うんうんと頷いた。また行きたい。(9月17日まで)

帰りにバラカンビートを聴いていると、Alabama ShakesのHold onが流れる。イントロから最後までかっこよすぎる。19時から、村上春樹がラジオをはじめるというので、聞く。はじめて村上春樹の声を聞いてドキッとした。小説は読んでいなくて、エッセイしか読んでいない。声を聞いただけなのに、よく知っている架空の人物といきなり出会った感じがなんともいえない。おいしい料理を提供する店や、好きな建築家や、小説家の仕事ぶりすこしでも見れるのはいい。彼らから学ぶものは、やっぱり才能なんだとおもう。あれです、いつものやつですよ。プロの仕事ぶりってやっぱりかっこいいなあ。今週は食が乱れたので来週は引き締める。